ペレログ

鳥マラリアとは。ペンギンが夏に命を落とす理由と、動物園・水族館の備え

ペレログ編集部8分で読めます

仙台市の八木山動物公園フジサキの杜で、この夏、4羽のフンボルトペンギンが相次いで死にました。 4羽とも、前の日までふつうに餌を食べ、いつもどおりに過ごしていたといいます。 死因は鳥マラリアでした。

死亡したフンボルトペンギンの調査結果について

仙台市役所 City of Sendai(外部サイト)

この記事では、鳥マラリアがどういう病気なのかを、公表されている資料をもとに紹介します。 そのうえで、なぜペンギンだけが極端に弱いのか、動物園や水族館が夏のあいだ何をしているのかを紹介します。

鳥マラリアとは、蚊が運ぶ鳥だけの感染症です

鳥マラリアとは、プラスモジウム属という原虫が蚊を介して鳥に感染し、貧血や突然死を引き起こす病気です。 人のマラリアとは原虫の種類が違うため、人に感染することはありません。 ペンギンでの発生例としては、Plasmodium relictum や P. elongatum などの種・系統が国内外で確認されています。

運び屋になるのは、アカイエカ群をはじめとするイエカ属の蚊です。 東京港野鳥公園の調査では、捕まえたアカイエカ群から鳥マラリア原虫が見つかっています。 吸血していた個体では60%、まだ吸血していない個体でも21%という検出率でした。

吸血源をたどるとスズメ、イワツバメ、ヨシゴイなどの名前が挙がり、身近な野鳥と蚊のあいだで感染の輪ができていることがわかります。

では、野鳥は無事なのでしょうか。 スズメやカラスなどは原虫を持っていても重い症状が出にくく、長い時間をかけてこの病原体と折り合いをつけてきたと考えられています。 問題は、その折り合いをまったく持たない鳥が日本の施設で暮らしていることです。

2026年7月、八木山動物公園でフンボルトペンギン4羽が死にました

仙台市が8月7日に公表した調査結果によると、死亡したのは4羽です。 7月9日に「あらまさ(オス)」、10日に「ひめ(メス)」、18日に「いずみ(オス)」、19日に「かすみ(メス)」が続けて死亡しました。 血液と臓器を検査したところ、複数の個体から鳥マラリア原虫の遺伝子が確認されています。

発表のなかでいちばん重いのは、次の一文です。

4羽とも死亡前日まで体調不良や食欲低下などの異常は認められず、通常どおりの様子で過ごしておりました。

仙台市「死亡したフンボルトペンギンの調査結果について」(2026年8月7日)

前日まで元気だった鳥が、翌日にはいなくなる。 飼育担当者が毎日そばで見ていても、間に合わないことがあるのです。

動物園

仙台市八木山動物公園フジサキの杜

宮城県仙台市太白区八木山本町1-43

休館
水曜

情報の取得日 2026-08-11(最新の情報は公式サイトでご確認ください)

なぜペンギンだけが、これほど弱いのか

理由は原産地にあります。 ペンギンの多くは南極や亜南極、あるいは寒流の届く海辺で進化してきました。 そこには蚊がほとんどいません。

つまりペンギンは、鳥マラリアの原虫に出会う機会そのものがない環境で過ごしてきたわけです。 そのため、他の鳥が持っているような抵抗力を獲得できませんでした。 全国環境研会誌の総説でも、ペンギン類やシロフクロウのような極地性の鳥は血液原虫への感受性が高く、感染したときの致死率が高いと指摘されています。

さらに、羽が生え換わる換羽期の体力低下や、夏の暑さによるストレスが重なると発症しやすくなると考えられています。 八木山の4羽が亡くなったのも、まさに換羽と猛暑が重なる時期でした。

危ないのは、蚊が飛んでいる季節

国内で公表されている事例は、6月、7月、10月に分布しています。 どれも蚊が活発に動く時期です。 海外の事例も夏から初秋に集中しており、季節の傾向ははっきりしています。

やっかいなのは、この時期がそのまま猛暑の時期でもあることです。 暑さそのものがペンギンの体力を削り、削られた体力が発症の引き金になります。 夏の動物園や水族館がどんな手を打っているかは、別の記事でもまとめました。

夏の動物園・水族館の暑さ対策。猛暑日でも動物に会える時間帯と回り方のコツ

猛暑日・酷暑日の動物園・水族館は時間帯と動線で快適に変わります。朝夕の狙い目、屋内展示を挟む回り方、持ち物、ナイトズーの使い方まで、夏のミュージアムを楽しむコツをまとめました。

ペレログの記事

暑さそのものが動物の命に関わる話も、多摩動物公園のライオンを取り上げた記事で書いています。

動物も熱中症になる酷暑。多摩動物公園のライオンと、動物園・水族館の暑さ対策

2026年7月28日から8月2日にかけて、多摩動物公園でライオン3頭が相次いで亡くなりました。園は熱中症の疑いがあるとみて調査中です。公式発表をもとに経緯を整理し、各地の動物園・水族館が実際に行っている暑さ対策を7施設の事例で紹介します。

ペレログの記事

動物園・水族館が続けている備え

蚊を発生させない

いちばん地道で、いちばん効くのが発生源対策です。 八木山動物公園は今回、展示場内に水たまりができないよう地面の凹凸を直しました。 バケツ一杯ほどの水があればボウフラは湧くので、除草や排水の管理が毎日の仕事になります。

たとえばイタリアの施設では、二酸化炭素で蚊を誘引するトラップや、水たまりに幼虫駆除剤をまく方法も併用されていました。

薬を飲ませる

蚊を減らすのと並行して、抗マラリア薬の投与も広く行われています。 ただし、八木山動物公園も定期的に抗マラリア薬を投与していましたが、そのうえで4羽を失いました。

暑さを下げる

八木山動物公園は再発防止策として、新たに送風機を設置すると発表しています。 暑熱ストレスを減らすことが、そのまま発症リスクを下げることにつながるからです。

こうした作業は、来館者の目にはほとんど映りません。 草を刈り、水たまりを埋め、薬を量り、血液を検査する。 どれも展示の華やかさとは無縁の仕事ですが、毎年夏になるとどこかの施設で必ず繰り返されています。 私はこの部分こそ、来館者にもっと知ってほしい領域だと思っています。

日本は、世界でも指折りのペンギン飼育国です

ここで、日本のペンギン飼育の規模にも触れておきます。 日本家禽学会に掲載された記事によると、国内の動物園・水族館では11種・5属、4,000羽を超えるペンギンが飼われています。 これは世界の飼育個体のおよそ3分の1~4分の1にあたるそうです。

長崎ペンギン水族館のように、飼育種数9種で世界一を掲げる施設もあります。 飼育数が多いということは、それだけ夏ごとにリスクを背負う施設が多いということでもあります。 日本の水族館めぐりを楽しむとき、この前提は覚えておいて損がありません。

全国の水族館おすすめ12選。エリア別ガイドと選び方

北海道から沖縄まで、おすすめの水族館12施設をエリア別に紹介。その土地の海を映す展示の見どころと、子連れ・デート・旅行という目的別の選び方、スタンプ帳「水族館編」の楽しみ方をまとめました。

ペレログの記事

ペンギンに会える館としては、国内最大級の展示場を持つ東京都葛西臨海水族園がよく知られています。 屋外展示のサンシャイン水族館、京都水族館、下関市立しものせき水族館 海響館なども挙げられます。

水族館

東京都葛西臨海水族園

東京都江戸川区臨海町6丁目2-3

水族館

サンシャイン水族館

東京都豊島区東池袋3丁目1-1 サンシャインシティワールドインポートマートビル 屋上

開館
10:00–18:00(最終入館 17:00)

情報の取得日 2026-08-11(最新の情報は公式サイトでご確認ください)

水族館

京都水族館

京都府京都市下京区観喜寺町35-1 梅小路公園内

水族館

下関市立しものせき水族館 海響館

山口県下関市あるかぽーと6-1

開館
09:30–17:30(最終入館 17:00)

情報の取得日 2026-08-11(最新の情報は公式サイトでご確認ください)

水族館

長崎ペンギン水族館

長崎県長崎市宿町3番地16

開館
09:00–17:00

情報の取得日 2026-08-11(最新の情報は公式サイトでご確認ください)

来館者として、知っておきたいこと

夏に行ったら屋外のペンギン展示が見られなかった、ということがあります。 暑さ対策や感染症対策で、屋内に退避していたり、公開時間を絞っていたりするためです。 がっかりする気持ちはよくわかりますが、それは施設が暑さや蚊の対応を適切におこなっている証でもあります。

訪問前に公式サイトやSNSで展示状況を確認しておきましょう。 もし目の前でペンギンが元気に泳いでいたなら、その裏側で夏じゅう続いている作業のことを少しだけ思い出してみてください。

ミュージアムが社会のなかで何を担っているかは、別の記事で書きました。 種の保全も、感染症との付き合いも、その仕事の一部です。

動物園の役割、水族館の保全、美術館の意義。ミュージアムは社会の装置である

動物園の種の保全、水族館の研究、美術館の保存と公開、科学館の科学リテラシー。館種ごとの社会的役割を概観し、その仕事を誰が支えているのかまでを1本で解説する柱記事です。

ペレログの記事

よくある質問

鳥マラリアは人にうつりますか

うつりません。 鳥マラリアの原虫は、人のマラリアを起こす原虫とは別の種です。 仙台市の発表でも「人に感染することはありません」と明記されています。

野生の鳥は大丈夫なのですか

スズメやツバメなど日本の野鳥は原虫を持っていることがありますが、重い症状が出にくいと考えられています。 長い進化のなかで、この病原体とある程度折り合いをつけてきたためです。 一方でペンギンにはその歴史がなく、同じ原虫でも結果がまったく違ってきます。

どうすれば防げるのですか

予防の柱になるのは、蚊を発生させないことと、抗マラリア薬の計画的な投与です。 あわせて、血液検査による監視も行われています。 ただし八木山動物公園の例が示すとおり、これらを重ねても完全には防ぎきれていないのが現状です。

症状から早く気づけますか

難しいのが実情です。 八木山の事例でも、前兆なく急死したと報告されています。 確定診断には血液や臓器から原虫の遺伝子を調べる検査が必要になります。

夏にペンギンが見られないと聞きました

暑さや感染症への対策で、屋外展示を休止したり時間を短縮したりする場合があります。 訪問前に各館の公式サイトで最新の情報を確認してください。

生きて泳いでいることは、当たり前ではありません

八木山動物公園の4羽は、死ぬ前日まで元気に見えていました。 そのことを知ってからペンギンの水槽の前に立つと、見え方が少し変わります。

夏のあいだ、草を刈り、水を抜き、薬を量っている人たちがいます。 その手間の上に、私たちが眺めている数分間があります。 できることは多くありませんが、足を運んで、入館料を払って、また来ることは、いちばん確実な応援になります。

ペレログでは、訪れた記録がそのまま施設への応援につながる仕組みをつくっています。 ミュージアム応援アプリは2026年8月中の公開を予定していて、いまは事前登録を受け付けています。 月額480円(年額4,800円)の応援メンバーという形で、めぐる楽しみと応援を同時に続けることもできます。


参考にした資料

この記事を共有